sakatori[sm]

君が言うなら(R18)

性描写を含むので閲覧できるのは実年齢18歳以上の方のみです。

「カシオにそんな嗜好があったとはね」
 低くて甘い声には笑みが乗っていた。揶揄する意図は感じなかったが、意外だという口ぶりだった
 そして、樫尾の手を取った王子は愛おしげに口づけた。袖口の長いカーディガンは彼の手の甲を覆い隠し、指は第二関節から先しか見えなかった。手入れされた爪の表面は透明に光っている。縦に長い女性のような爪。横に幅が広い自分のそれとは違う。
「……、っ」
 喋ろうとしたが、樫尾の口の中はからからに干からびていた。彼と重なっている手の部分から全身に熱が広がる。顔が火照って首や背中から汗が噴き出した。
 数えきれないほど顔を合わせてきた。それどころか身体を重ねたこともある相手に今更何を戸惑うことがあるだろうか。
 そう頭で分かっていても身体は思うように動かない。樫尾よりいくらか目線が高い王子がまた微笑んだ。
「いや、君をからかうつもりはないさ。可愛い後輩のお願いだからね。それに、何でも一番になるのは気分がいいものだ」
 上手く着こなせているか分からないけど、と首を傾ける王子の髪の毛がふわりと揺れた。いつも真ん中で分けた前髪はまっすぐ下りて、癖のある襟足も落ち着いていた。
 王子と目を合わせるつもりでいた樫尾の眼球が忙しく動く。普段と違う髪型や、黒縁のハーフリムに意識が散らばるのだ。
 それだけでなく服装も。タートルネックにゆったりとしたカーディガンを羽織り、膝下まであるタイトスカートを穿いていた。スカートの袖から伸びる足は黒いストッキングに包まれている。
 王子のことを男だと認識していた。今もそうだ。旧弓場隊戦闘員の面々――弓場や神田、蔵内――と比べれば王子は華奢だが、それでも身長は平均を軽く上回っていた。身体つきも性格も男性そのものの王子に女性らしさを見出したことはない。よくて男性に寄った中性的な美形、といったところだろう。奈良坂や隠岐のような。
 上半身なら肩と肘、下半身なら腰と膝、そして手の甲というように主張が激しい骨を隠すだけで王子の性別は簡単に揺らいだ。
 王子の顔をまじまじ見つめる。全体的に顔面の色素が薄いせいか、黒縁に視線が吸い寄せられる。レンズの向こうにある彼の目はこんなに大きかったか、睫毛はこんなに長かったか、茹だった頭では冷静な判断が下せない。
「でも化粧はできなくてごめんね。ぼくにはリップや日焼け止めを塗るのが限界みたいだ。女子は毎日あんな面倒なことやるんだから尊敬するよ」
 慣れない服装に窮屈さを感じているのか王子が一つ溜め息を落とした。今まで王子がリードしていた空気に一瞬だけ間のようなものができた。
 樫尾は大きく息を吸った。決意して、彼の手を握り返す。
「いえ……。とても綺麗です……、王子先輩」
 きっかけは第一高等学校の文化祭だった。催し物の一つである女装コンテストに出場した王子が優勝したと言ったのは確か北添だった。訓練所の休憩スペースで水分補給しているときに北添が彼のスマートフォンを樫尾に差し出したのだ。仮装した当真や穂刈と肩を組んでいたのは王子に似た女性だった。そのとき少なくとも樫尾には王子が女性のように見えた。
 当真くんとポカリはネタに走ったのにオージは本気だったから、と北添は笑っていたが樫尾は内心穏やかではなかった。催し物で優勝したというのは王子から聞いていたもののまさか異性装していたとは。
 文化祭は親族のみ参加可能な非公開で行われたため、その王子の姿を樫尾が直接目にすることはできなかった。俺にもその姿を見せてくれませんか、と頼んで今に至る。
「ぼくもあのときの自分は綺麗だと思った。女子が頑張ってメイクしてくれたからね」
「写真と同じくらい、いえ、それより今の王子先輩のほうがずっと綺麗です」
 万感の思いなのに口にすると何と陳腐なものか。しかし平面の写真よりも実物の王子のほうが遙かに美しいと樫尾は感じていた。まとう空気や言葉といった視覚以外の情報も影響しているのだと思う。
「ありがとう。でも……何人も褒めてくれたけど、こんな反応をしてくれたのは君だけだよ」
 カーディガン越しの掌が樫尾の股間に触れた。陰嚢を撫で上げられ樫尾の背筋に電撃が走った。
「あなたがあまりにも美しいので……」
「カシオはこういうのに興奮するんだ?」
 耳元で囁かれ、鼓膜の奥で王子の言葉がこだました。嗅ぎ慣れない匂いはリップだろうか。それとも香水でもつけているのだろうか。
 王子は樫尾の腰を抱いて顎を掬った。口づけを交わしながらベッドに腰を下ろす。
 激しく脈打つ股間の痛みに樫尾は眉根を寄せた。不格好だが服を脱ぐより先にズボンの前を寛げた。
「せっかくだから今しかできないことをしようか。カシオ、こっちに向いて座ってくれ」
 ベッドの真ん中に陣取った王子の爪先が樫尾の股間に触れた。下着とストッキングを隔てた愛撫は刺激とは言えない微々たるものだった。手ほど器用に動かない足だからなおのこと。しかし。
 樫尾に向き合う王子の足はストッキングを穿いているせいかいつもより引き締まって見えた。立っていたときはスカートで隠れていた膝が今はスリットの隙間から覗いていた。そして太腿も。
 服をまとったままの王子の上半身は相変わらず輪郭が隠されていたが、スカートがずり上がったせいで太腿は半分ほど露わになっていた。骨は細く、肉も少ない。ほっそりとした、しかし確かに男の足だった。
 樫尾の脳は視覚情報を上手く処理できなくなっていた。男らしさと女らしさを兼ね備えた王子。今の彼は男なのか女なのか。それともどちらかに当てはめようとすることがナンセンスなように思えた。倒錯感が脳を覆い尽くす。
 王子の足裏が樫尾の性器をさすっていた。強い圧力をかけず、形を確かめるようにゆっくりと、宥めるように。まるでわざと刺激を避けるような緩慢さだった。
 しかし、それにも関わらず樫尾は下着を突き破らんばかりに勃起し、頂点は大きな染みになっていた。
 足の親指を曲げた王子は樫尾の下着のウエストに引っかけた。そのまま下へずらすと樫尾の性器が勢いよく飛び出た。それを逃がすまいともう片方の王子の足が樫尾の陰茎を捉えた。足の裏全体で陰茎を受け止めて、樫尾の腹に固定するように押さえつけた。樫尾の尾骨がちりりと痺れた。
 王子の体温を性器全体で感じた。踏まれているがやんわりとした圧迫感があるだけで決して痛くはない。
 しかし、いつもは愛おしみ丁寧に、時には口に含んで愛撫することもあったのに、今は足蹴にしているというギャップに昂ぶった。
 王子の両足の土踏まずの部分が樫尾の陰茎を挟んだ。曲げた指を陰茎に沿わせて上下するさまは手で愛撫するときと似ていた。
 ストッキングのすべらかな感触、爪先を補強するトウのざらつきを根元から先端まで満遍なく味わう。爪先を丸めた指に亀頭を揉まれると吐精欲が煽られる。
 足による愛撫自体は射精に至るものではないが、視覚的な刺激があった。後ろ手をついて体重を支える王子が両足を動かす姿は扇情的だった。
 上半身だけを見れば楚々とした姿なのに、がに股になり先走りまみれの爪先で男性器を弄ぶのがたまらない。女装している王子のスカートの中はどうなっているのか。この状況に興奮しているのだろうか。
「ずっとスカートの方を見ているね。そんなに中が気になるかい? まあ後のお楽しみということでっ……」
 陰茎を行き来していた十指が雁首を重点的に扱いた。指と指の段差が流れるように当たって気持ちいい。裏筋から尿道口を親指の腹で擦られると先走りが滲んだ。王子の足が樫尾の弱いところを的確に刺激した。皮膚でも粘膜でもスキンでもない、独特の感触が樫尾の性器を包みこむ。
 下着の中の陰嚢がぐっと持ち上がった。血管が浮き出た陰茎がびくびくと痙攣する。限界が近づいて、ちかちかと目の前で星が散った。
「せんぱいっ……」
 尿道を駆け抜けた精液が体外に飛び出した。王子を犯さんがばかりの勢いで何度も精液を足先に叩きつける。王子の爪先だけでなく、足の裏や表までも粘液が付着した。
 王子の爪先が樫尾の性器を離れるとき、何本もの粘液の糸が引いた。
「こんなに大きなカシオを見たのは初めてだ」
 射精により脱力した樫尾の横に王子が並んだ。抱きとめるようにして腕を回される。激しい興奮の波を越えて、王子の匂いや体温に今は安らぎを覚えた。
 王子の手が樫尾の陰茎を握った。手を筒状にして根元から扱いて中に残る精液を押し出す。開いたままの尿道口からじわりと精液が漏れた。
「今度はぼくを可愛がってね」
 今まで聞いたことがないような高く甘い声に、樫尾の下半身に力が戻るのを感じた。