ワールドトリガー

てがろぐを導入した


今まで日記を書くときだけてがろぐを利用していたけど、最新beta版は色々便利になっていたのでCMSとして使うことにした。IF文のおかげでより普通のサイトっぽく作れるようになった。

利用させていただきました


参考


エスケープ
【参考】文字装飾の内部等にテキストとして半角角括弧を書きたい場合の書き方(エスケープ記法)
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  • :


引用
 ゴーシュは町の活動写真館でセロを弾く係りでした。けれどもあんまり上手でないという評判でした。上手でないどころではなく実は仲間の楽手のなかではいちばん下手でしたから、いつでも楽長にいじめられるのでした。
 ひるすぎみんなは楽屋に円くならんで今度の町の音楽会へ出す第六交響曲(こうきょうきょく)の練習をしていました。
青空文庫「セロ弾きのゴーシュ」 より引用

文字装飾
強調 太字 斜体 下線 取り消し線 小さい字 極小の字 ルビ(ルビ) 文字色 背景色 引用(F:q) 改行(F:br) 大きな文字で表示(F:scream) 等幅フォントで表示(ソース等の掲載用/F:code) 区切り用の薄い横線を引く(F:separator)

Twemoji
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カスタム絵文字
sakatori

画像(PICT:FIG記法/キャプションつき)
コザクラインコ
コザクラインコ

[S:img:]で囲むで囲むと小さいサイズになる。
コザクラインコ
コザクラインコ


画像(IMG記法)
ギャラリーモードに掲載されない。https~を指定する。
favicon用画像(IMG記法):

画像(PICT記法)
ギャラリーモードに掲載される。相対パスを使う場合は「画像保存フォルダ」から見たファイルの位置を指定する。
apple-touch-icon用画像(PICT記法)

画像(PICT記法/画像リンク)
バナー用画像(画像リンク)

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  • 艦これ「【期間限定任務】南瓜祭り2024、拡張作戦!」2-4編成
  • 艦これ「【期間限定任務】南瓜祭り2024、拡張作戦!」5-5編成
  • 艦これ「【期間限定任務】南瓜祭り2024、拡張作戦!」7-5-3編成


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ハッシュタグ
【参考】一覧にリストアップされない「隠れハッシュタグ」の書き方
【参考】半角文字・全角文字・空白の混在するハッシュタグを書きたい場合
#-ハッシュタグ
#-123 ABC あいうえお

記事内リンク
【参考】任意の記事番号リンクの書き方
ワールドトリガー
10,11,12
10~12記事リンク(降順)
>>10,11,12
10,11,12/R
10~12記事リンク(昇順)
>>10,11,12/R

リンク
【参考】リンクの書き方
【参考】自動でリンクにはならないURLを一時的に書きたい場合の書き方
Google...
https://www.google.co.jp/ リンクしない
https://www.google.co.jp/ URLでリンク
Google 任意の文字列でリンク
Google 任意の文字列でリンク+新規タブで開く
Google ボタンでリンク
Google ボタンでリンク+新規タブで開く

リスト
【参考】リスト(箇条書き/番号付き/説明)の指定
  • 順序なしリスト1
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  • 順序なしリスト3

  • 絵文字つき順序なしリスト1
  • 絵文字つき順序なしリスト2
  • 絵文字つき順序なしリスト3

  1. 順序付きリスト1
  2. 順序付きリスト2
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定義リスト1
説明1
定義リスト2
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ラベル
あいうえお


鍵つき
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留守番(WT/いこみず)


ワールドトリガー』生駒達人×水上敏志。いこみずワンドロワンライ第72回に投稿した作品。イコさんを一番上手く使えるのは俺、という自負があってほしいという話。
-----
「一緒に行きたい人、って言われてもなあ」
 隠岐の声が作戦室に響く。そもそもおれ遠征希望してへんのに、と困ったように笑いながら端末を机に置いた。
「提出期限は近いから忘れんと出しとき」
 オペレーター用のパソコンから細井がひょいと顔を出した。いつも手際がいい彼女はどうやら遠征選抜試験の参加者調査票を提出したようだ。
「オレは秒で出しました!」
「悩みがなくて羨ましいわ……」
 はあと溜め息をつく細井を横目に南沢が笑っている。いつも前向きで深く悩まないのが彼のいいところだ。しかし、それが長所になるか短所になるかは場合による。
「で、水上はどう思う?」
「何がですか?」
 目的語が欠けた質問を投げてきた生駒に水上が聞き返す。
「遠征に行けるんはA級の、しかも希望した部隊だけや。俺らB級は遠征に行かれへんのに参加者調査票に答える必要あるか? おまえなら上層部の意図が分かるかと思うてな」
「お偉いさんの考えは分かりません。けど、今回はいつもより大がかりな遠征になるやろうから、希望者以外も行くかもしれませんね。あと、部隊でなく個人をB級から選ぶとか。イコさんとか、鋼とか、弓場さんとか単騎で強い人おるし。まあ調査票は言葉どおりの意味やと思うてます」
 何の面白みもない予想を語る。三門市を守るという使命感を持ってこの地にやって来たが、水上は遠征に興味がなかった。生駒隊でならともかく、個人では行く気はないし、また選ばれるとも思っていない。
「俺は遠征に興味あるねんけど」
 生駒の言葉を聞いた隊員たちの視線が彼に集まる。
「えっ、そんな意外か? ボーダー隊員やっとるなら近界に行ってみたいやろ」
「オレも興味あります!」
「あんたら、そんな遠足みたいなノリで言うけど、外国より遠いとこやで。しかも危険な」
 水上の考えと同じことを細井が語る。遠征で怪我人や死人が出たという話は聞かないがそれでも日本から遠く離れた土地ということには変わりない。大切な人には危険な目に遭ってほしくないと考えるのは自然なことだろう。もっとも殺しても死なないという生駒に対する信頼はあるが。
「それはそうやけど、俺の力が誰かの役に立つかもしれんと思ったらやっぱ行きたいわ。で、いつか平和になったらいろんな土地や人も見てみたい」
「イコさんらしい考えですね」
 机の真ん中に広げた袋菓子をつまむ隠岐が感嘆する。そう、生駒はこういう男なのだ。好奇心が旺盛で底抜けに人が好い。
「万一俺が遠征に行ったらその間はおまえにこの隊を頼む」
 告げられ、違和感が背中を走った。一度大きく息を吸って心を落ち着ける。
「……荷が重いこと言わんといてくださいよ」
 努めて冷静に答える。周囲からどう見えているのかは分からない。
 生駒が遠征に行くところを思い浮かべた。細井ではない誰かにオペレートされ、生駒隊ではない誰かと戦う場面が頭の中で再現される。
 他人の作戦に従う生駒を想像して、嫉妬のような感情が胸に渦巻く。赤黒い炎が肺を焦がす。
 この人を一番上手く動かせるのは自分だという自負があった。彼が負けるわけないからそもそも命の心配はしていない。
「でもおまえならやってくれる。そうやろ?」
「あんたの命令やったら従いますよ。過不足なく完全にやってみせます」
「おお、心強いな!」
 いつもの無表情に声だけが弾む生駒を見た。その目は澄んでいた。
 信頼されているからこそ、こちらもその想いに応えたいと思う。今後彼がこの地を旅立つことになっても。
#ワールドトリガー #いこみず

小春日和(WT/水隠岐)


ワールドトリガー』水上敏志×隠岐孝二。水隠岐ワンドロワンライ第8回に投稿した作品。寒暖差にやられる水上と元気な隠岐。同棲しています。
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『11月上旬はまだ夏日が観測される可能性があります。朝夕の寒暖差にご注意ください』
 つけっぱなしのテレビからそんな言葉が流れてきた。
 秋の終わる朝は、室内もひんやりしていた。寒さに凍えるほどではなく、すっきりするような、気持ちが引き締まる気温だ。空気が澄んでいると感じられるこの時期が好きだった。
 リモコンを操作して、いつも見ている番組をつけた。テレビ画面左上には現在の時刻が表示されている。普段なら二人で食事を摂っている頃だ。
 立ち上がった隠岐はカーテンを開いた。レースカーテン越しに柔らかく暖かい光が部屋に差し込んだ。単板ガラスからは冷えた空気が伝わる。寒と暖が隠岐の爪先で交錯する。
 その足でベッドに向かった。水上は布団に突っ伏したままだった。時折掠れた寝息が聞こえてくる。いつもならとっくに起きて家事をしているのに。何なら隠岐より水上の方が規則正しい生活をしているくらいなのだ。
「水上先輩、もう起きる時間ですよ」
 声をかけるが、うんうんと唸り声が聞こえてくるだけで起きる気配はない。
 水上のことを考えるのなら今すぐに起こした方がいいのだが、もう少しこの時間を味わいたいと思った。彼の無防備な姿は珍しいから、もう少しだけ眺めていたい。
 ぼさぼさに乱れた髪の毛に、眉間に深く刻まれた皺。何とも言えない風貌である。風邪でも引いたのかと掌で体温を計ってみるが平熱だった。
 隠岐の視線に気づいたのか水上が恨めしげにこちらを見上げた。 
「寒い。頭がズキズキする。雨降っとらん?」
「晴天ですよ。それより、おはようござ、っ」
 挨拶するために顔を近づけると首根を引っ張られた。そのままベッドの中に押し倒された。
「うわ、おまえ、足冷たい」
「勝手に布団に引きずり込んでひどい言い方するなあ。そりゃさっきまでスリッパなしで床に立ってましたからね」
 水上は隠岐の背中に腕を回した。寝ぼけて自分のことを抱き枕だと勘違いしているような仕草だった。
 強制的に添い寝させられる形となった隠岐は水上にかける言葉を選びあぐねていた。
「なんぼ布団の中におっても身体が温もらんねん。寒い」
「体温を上げるにはエネルギーって水上先輩が言うとったやないですか。朝ご飯食べたら勝手に温もりますよ」
 隠岐から体温を奪うためか、彼の手がシャツの中に忍び込んできた。生温い掌が隠岐の背中を這う。性的な意図は感じないが、ぞわぞわして落ち着かない。しかし離してくれそうにない。
 ぐだぐだになっている水上の頭を抱いて手櫛で髪の毛をとかした。何を言っても通じそうにないので黙って宥めた。

 どれほど時間が経ったのか数えていないが、水上は落ち着きを取り戻したのか顔を上げた。
「……すまん」
「ええですよ。誰にも調子が悪いときはあるし」
 そうやな、と呟いた声は乾いていて、隠岐はまた微笑んだ。こんな彼の姿を独り占めできるのは自分だけだと思うと悪くない。
「起きますか?」
「おん」
「ほなベッドから出て、顔を洗って歯も磨いて、朝ご飯を食べましょう。たまにはおれが作りますよ」
 一緒に一日を始めよう。その前に必要な言葉は。
「おはようございます。水上先輩」
「おはよう、隠岐」
#ワールドトリガー #水隠岐

おそろい(WT/いこみず)


ワールドトリガー』生駒達人×水上敏志。いこみずワンドロワンライ第62回に投稿した作品。トップスのサイズが同じな二人。
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 思ったより大雨に打たれてしまった。始めは小雨だったから油断していた。
 ごろごろと雷が鳴り始めた頃はもう近くに店はなく、雨具を買うことはできなかった。あと数分ほどの距離だから、どうせ濡れても水上の家に着替えが置いてあるから、と軽く考えていたのがいけなかった。
 自転車を駐輪場の定位置に止めると、下着までびしょ濡れになっていたことに気づいた。
 水に溶けた整髪剤が目に染みる。強面をさらに険しくした生駒は階段を駆け上がった。コンクリートに鼠色の足跡がつく。
 目当ての部屋に辿り着いてインターホンを押した。数秒待つと水上がひょいと玄関ドアから顔を出した。うわあ、随分派手にやられましたねえ、と呟く声は全くの他人事だ。
「というわけで水上、風呂貸してくれ」
「床は拭いとくんで、直行してください。着替えも出しとくんで」
「助かる」
 水を吸い重くなった履物を脱いで、上がり框を跨いだ。鞄を置いて浴室に向かう。
 寮の1Kに脱衣所なんてないから廊下で服を脱ぐ。身体にぴったりくっついた衣服を引き剥がして片っ端から洗濯機に放り込んだ。ぐちゃぐちゃに裏返った服を気にする余裕はなかった。まずこの冷えた身体をどうにかしなければならない。
 脇見すると、水上が雑巾で廊下を拭いていた。こちらを見上げた彼と目が合う。裸を見た程度でどうこう言うような仲ではない。
「片づけありがとう。頼むわ」
 浴室に足を踏み入れる。熱めのシャワーを当てると、ちりりと肌の表面が痺れるような刺激があった。一人でも窮屈な二点ユニットバスが熱気で包まれる。
 温かい湯を頭から浴びてようやく落ち着きを取り戻した気がする。そんなところで浴室ドアの外から物音がした。
「イコさん、失礼します」
 がらりと浴室ドアが開いた。曇った鏡越しに水上が立っていた。
「シャツだけないんですけど、俺の着ますか?」
「あれ! 予備を置いてへんか? 濃緑の長袖」
「別のと交換する言うて持って帰ったやないですか」
 シャワーが邪魔するので大声での会話になる。体格のいい二人の関西弁だから端からは怒鳴り合っているように見えるかもしれない。
 預けてあった服のことをすっかり失念していた。生駒本人のことなのに水上の方が詳しいのは、自分が忘れっぽいのではなく彼の記憶力がいいということにしておく。
「悪いけど貸してくれるか」
「ええですよ、どうぞ」
 心身が温まり、ついでにさっぱりした。出された着替えを身につけると、ふと借り物のシャツのタグに目がいった。自分と同じサイズだ。
「おまえLが入るんか。俺と同じやないか」
 横幅はともかく縦幅がある彼のことだからきっとLLくらいの服を着ているものだと思っていた。
「ああ、これやと袖丈が短いことはあります。けどサイズを一つ上げたところで身頃がだぶつくだけで、袖の長さはあんま変わらんことが多いんです。なんでLを買うことが多いすね」
 生駒からバスタオルを受け取った水上が洗濯機に入れた。ネットを片手に、生駒の衣類のより分けもしてくれている。
「俺は首回りや肩幅が足らんでLや。それに胸がピチっとして……乳首が浮いたら恥ずかしいやん?」
「そうすね」
 全く興味なさそうに水上が返事をする。洗濯機のボタンを押して洗剤と柔軟剤を量っていた。
 シャンプーもボディソープも水上のものを使用し、シャツも借りているものだから全身が彼に包まれているような気分になった。自分から他人の匂いがすることに高揚した。
 自分の手を見ると余った袖が掌を少し隠していた。いわゆる萌え袖というには少し足りない。七分袖ならぬ十一分袖といったところか。
「彼シャツや。可愛い?」
「……どちらかというとおもろいですね」
 両手を顎に当てて小首を傾げてみると、案の定といった反応が返ってきた。冷たいわけではないが、さっきから彼の言葉はつれない。
「上着のサイズが同じやったらお揃い着れるやん。今度一緒にユニクロ行こうや」
「行くんはいいですけどお揃いとかは互いに柄ちゃうでしょう」
「部屋着やったらええやん」
「……えろう食い下がりますね」
「恋人らしいことは一通りやりたいからな」
「まあイコさんが言うんやったら俺は」
 洗濯機にざあざあと水が注がれる音で、彼の言葉はかき消された。しかし、微笑んでいたから嫌がっていないことは想像できた。
「で、買い物はいつにしますか?」
 部屋に戻ろうとする水上が生駒を振り返った、向こうからスケジュール調整を持ちかけてくるならまんざらではないのかもしれない。
 生駒は今後の予定を思い浮かべた。学業と防衛任務を両立させ、今はランク戦を抱える身なのでそれなりに忙しい。
 洗濯機の給水が終わりやがて洗浄の工程に移行した。洗濯が終わるのと予定が決まるのとどちらが先になるだろうか。
 そんなことを考えながら生駒は彼の部屋に迎え入れられた。
#ワールドトリガー #いこみず

黒猫(WT/水隠岐)


ワールドトリガー』水上敏志×隠岐孝二。水隠岐ワンドロワンライ第7回に投稿した作品。黒猫とは隠岐のことですよねという話。
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 隠岐のことを考えるとき、最初に思い浮かぶのはあの笑顔だった。
 どの季節も肌荒れとは無縁の瑞々しい輪郭だった。手入れの行き届いた唇は艶やかで、いつも緩い弧を描いていた。見慣れていても微笑まれると目を逸らせなくなるような。
 嬉しいときや楽しいときはもちろん、負の感情を少々抱いたときですら笑ってやり過ごすのが彼だ。困ったなあと眉を下げて笑う。悲しいと目を伏せて笑う。
 物の捉え方が大らかで人のよさが表情に出ている。だから彼の穏やかに笑う姿がすぐ思いつくのだった。
 でも、いつもの笑顔が消える数少ない瞬間を水上は知っている。

「人間は一人で生きられへんと思うんです」
 吐息が届く距離で隠岐が呟いた。彼がまだ起きていたことを知った水上は、掛け布団を引き上げて身体が冷えないようにしてやった。
 一人用の布団と枕を二人で共有していた。部屋はひんやりとした空気で満ちていたが、布団の中は二人の体温ですっかり温まっていた。
 保安灯にした部屋に秒針の音が響いている。
「なんや、急に。難しい話か?」
 宥めるように彼の頬を掌で撫でた。そのまま手を伸ばし続けると耳を通り越して後頭部に触れた。癖のある直毛に指を絡めるとさらりとした感触があった。耳も髪もすっかり冷たくなっている。
「いや、ミャーちゃんのことなんですけど……」
「またか。何回目や。あと自分ちの猫をちゃん付けするな」
 自分の飼い猫だけでなく、カフェの猫や野良猫までもカメラに収めて専用のフォルダを作っている彼は自他共に認める愛猫家だ。
「三門に来るまでは寝起きに猫がおってくれたのに、今は一人なんが寂しいんですよ。布団が冷たい。おれが寝坊したら顔を舐めて、それでも起きんかったら首を噛んだり、身体に乗っかったりしてくるんですよ。可愛いでしょ」
「……分からん」
 動物を飼ったことがない水上はペットといる生活というのがいまいち想像できない。
 隠岐曰く猫は可愛い。見た目はもちろんのことその性質も。身体はすらりとして柔軟性がある。艶のある毛は手触りがいい。気ままなように見えて人に寄り添う社交性がある。だから愛おしいのだ、と。
 それこそ暗記するほど耳にした説明だが、聞けば聞くほどそれは隠岐自身のことを指しているのではないかと水上は思った。
 容姿端麗、身体に女性的な曲線はないが華奢でしなやかだ。骨が目立って抱き心地はよくないが惚れた弱みでその固さや重さすら愛おしい。艶のある髪を撫でるのが好きだ。色気のある低い声が情事のときはか細く上擦るのを聞くとたまらない。
「家族はおれが三門に行く理由をもちろん分かってくれとるけど、猫は理解できんから、おれに捨てられたと思ってるみたいです。それがもどかしいんです。今も猫はおれにとって家族で、何年かしたら家に帰るから待っとってほしいって伝えたい」
 完全な意思疎通が不可能だからこそ人間は動物を愛せるのだと水上は考えていた。少なくとも理由の一つにはなるだろう。もし人間同士のように言葉でやりとりできたらきっと衝突する。そして消耗する。だが動物と人間は正確なコミュニケーションが取れないから互いの行動を自分の都合のいいように解釈する。気ままな動物と表現される代表の猫も実は日々真剣に考えて生きているかもしれないのだ。
(俺だったら寂しい思いはさせんけどな)
 気取った言葉が脳裏をよぎる。あまりの馬鹿らしさに笑いが込み上げてきそうだった。写真や動画でしか見たことがない隠岐の飼い猫に対し、嫉妬に似た感情を覚えたなんて言えるわけがない。
 そもそも本気で猫と張り合うつもりはない。隠岐とて飼い猫と恋仲である水上は比較できないだろうから。あるいは人間が猫に敵うはずがないと一蹴するかもしれないが。
 いつもは赤子のようにやや青みがかった眼球が今はほんのり赤くなっている。多分泣いてはいないだろうが、何か思うことがあるのかもしれない。これもホームシックの一つだろうか。
 ここから先に踏み込むのは何となく憚られた。人好きのするようで案外パーソナルスペースが広い彼である。水上も細かく聞き出すのは性に合わない。
 言葉をかける代わりに隠岐を抱き寄せる。彼は促されるまま水上の腕に収まった。何度か瞬きを繰り返して完全に瞼を閉じた。無防備に寝顔を晒している。
 隠岐の感傷を馬鹿らしいと一蹴しなかったのは水上なりの優しさだ。
 動物を愛する人間の気持ちを水上は想像した。分かり合えないからこそ愛おしいのだと。
 猫に例えるには大きな恋人を抱いて、水上も目を閉じた。
#ワールドトリガー #水隠岐

痛み分け(WT/モブ王/R18)


ワールドトリガー』モブ×王子一彰。モブ×王子及びモブ&王子アンソロジー『王子観測誌』に参加させていただいた作品の再録です。未成年の飲酒・喫煙描写を含みます。直接的な性描写はありませんが、R18作品として収録されていたので、実年齢18歳以上の方のみ閲覧してください。また、王子が弓場隊または王子隊の誰かに片想いする描写があります。
閲覧しますか?:

ハグ(WT/いこみず)


ワールドトリガー』生駒達人×水上敏志。いこみずワンドロワンライ第61回に投稿した作品。感触で体調が分かる男。
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 散らかっていた物を片付けて自分が座る場所を確保した。持ち物は少ないのだ。しかし部屋が狭いとすぐ物で溢れ返ってしまう。
「水上。ちょいこっち来て」
 ローテーブルの向かいにいる生駒に呼ばれた。立ち上がって歩くまでもない距離だった。
 横着して四つ這いになり何度か手足を動かすと、すぐ彼のところに辿り着いた。座布団の上にどっしり構えた彼と対面する。
 生駒の腕が水上に伸びた。頭を抱かれて、広い胸に迎え入れられる。彼は表情の変化に乏しいのでその行動は突拍子なく見える。今回もそうだ。
「なんすか」
「充電」
「いや、どっちかいうたら俺の方が充電させてもろうとる気がするんですが」
 筋肉の弾力と温もりを衣服越しに味わう。とくとくと定期的に打つ鼓動が耳に伝わる。自分のものではない体臭に安らぎを覚える。
 生駒の体幹はかなりしっかりしている。身長相応の体重がある水上と並んでも胴回りの差ははっきり見てとれるほどだ。この男らしい身体に抱かれるのが好きだった。
 水上の頭を抱いていた腕が動く。首を通り過ぎて背中や脇腹を、大きな手がまさぐる。
 我が物顔で動き回る他人の手を制することなく、水上は好きにさせていた。何か確かめるように慎重に動いていた指がぴたりと止まった。
「……なんかおまえ、痩せとらん?」
「身体測定んときしか量らんので知りません」
「えっ、そんなん年に一回やん! ボーダーの身体測定は半年に一回やろ? 年に二、三回しか体重計に乗らんいうこと?」
「そんなしょっちゅう乗るもんでもないでしょ。成長止まって身長も体重も増減ないし」
「体重計くらい買うたらええのに。それかうちに来たとき乗るとか。俺は週一で量っとるで。最近食い過ぎてちょっと増えた」
 以外とまめな生駒を知って水上は笑みがこぼれた。もっとも彼は美容目的ではなく健康管理の一環で計量しているのだろうが。
「まあ、最近忙しかったんで飯は手ぇ抜いてましたね。でもイコさんちでご馳走になってたんでプラマイゼロでしょ」
「いや減っとるって絶対」
 生駒の手が水上の頬を包む。上を向かされて至近距離で視線がかち合う。
 顎の下を撫でられる。厚い指の腹で何度かさすられるとちくりとした痛みが走った。
「ここ、ニキビできとる。ここも。ビタミンBが足りてへんやん」
「年頃なんでニキビの一つや二つできるでしょ」
「おまえ頭よくてしっかりしとんやから自己管理もそれくらい頼むで」
 ――足りん栄養はちゃんとサプリで補っとります。
 ふとよぎった言葉が実際口に出ることはなかった。きっと彼が望んでいるのは適切な食事で栄養を摂ることだろうから。
 生駒の指が水上の頬を愛おしげに撫でた。皮膚と皮膚の触れ合いに妙な摩擦を感じるのは肌荒れのせいか。
「唇もちょっと乾燥しとる」
 親指が水上の口の周りをなぞる。性的な意図は感じないが背中がぞわぞわするのは自分が期待しているからだ。
「今夜飯食うて帰れ」
「それいつもやないですか」
「あんまり甘やかすのはあかんと思うとったのになあ」
「自覚あったんすね」
 はあと大きな溜め息には困惑が乗っていた。しかし、表情だけは変わらない。
 生駒に迷惑をかけるつもりはない。しかしマイペースな彼を乱すことができるという事実に、水上の胸には優越感が満ちた。
#ワールドトリガー #いこみず

木曜五限と金曜二限だけの想い人(WT/モブ+王子)


ワールドトリガー』王子一彰+モブ。モブ×王子及びモブ&王子アンソロジー『王子観測誌』に参加させていただいた作品の再録です。体育の授業のときだけ王子のことを考えるクラスメイトの女子の話。
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 スライド式のドアを開いて中をぐるりと見渡すとまだ誰もいないようだった。司書の先生の姿もない。
 少し湿気があって、古い紙の独特の匂いがする図書室が好きだ。二年連続でじゃんけんに勝って図書委員になれたのは幸運だと思う。どうせ何かの委員会に入るなら、やりたいことがあるほうがいい。どうか三年生でもなれますように。
 私はカウンター下の棚に置いてあった、コピー用紙とマーカーを取り出した。ポップの締め切りは今週末だから、人が少ないうちに早く作業を終わらせたい。
「今日はきみが当番なんだ」
 不意に言葉をかけられて背筋が粟立つ。声がした方向を見ると、本棚と本棚の間から王子くんがひょいと顔を出した。何冊か本を抱えてこちらに近づいてくる。
「うん、そうだよ」
「じゃあ貸し出ししてもらえるかな」
 私はパソコンに視線を落とした。画面は明るいままだから先生はさっきまでここにいたのだろう。生徒が生徒のプライバシーを扱うのはよくないということで、貸し出しの作業は基本的に先生が行っている。私もそうするのがいいと思っていた。
「それは先生がやってるんだけど」
「残念。すぐ帰ってくるかな?」
 王子くんはちらりと壁時計を見た。急ぎの用事でもあるのだろうか。早退や遅刻が当たり前のボーダー隊員が放課後までこうしているのは珍しい気がする。
 二人きりの部屋がしんと静まりかえった。気まずいから先生は今すぐに帰ってきてほしい。
「……王子くんがいいなら私がやるよ」
「じゃあお願いしようかな」
 居心地の悪さに耐えかねて申し出ると、王子くんは柔らかく微笑んだ。他の男子のような荒っぽさやだらしなさがない王子くんはいつもきちんとしている。隙がないともいう。正面から向き合うと少し緊張するくらいには見た目がいいし、よく通る低めの声は耳に残る。
 王子くんが数冊の本と利用者カードをカウンターに置いた。
 チェーホフ、安部公房、流行を三年ほど過ぎたラノベ二冊、そして将棋の本。
 読書傾向に統一感がなくて面食らった。その中で一番意外だったのは。
「……将棋、好きなんだ」
 つい口に出してしまった。ただ本が好きだというだけで気取っているとからかわれるのが嫌だから、私も人の好みに触れないようにしようと思っていたのに。
 安部公房いいよね、不条理の中にもユーモアがある『壁』が私は一番好き。ロシア文学は重苦しくて冗長なイメージがずっとあったけど、チェーホフのおかげで好きになれたよ。本来知るべきではなかった王子くんの情報に触れたお詫びに、自分のことも開示しようとしたけど結局言葉にしなかった。王子くんが私の本の好みに興味があるなんて思えないからだ。
「いや全然」
 私の動揺をよそに、王子くんは人好きのする顔のままあっさり否定した。私は渡された利用者カードを落としそうになった。
「ぼくは元々チェスが好きなんだ。でも最近将棋に興味があってね。最初はスマホのゲームをやってたんだけど、体系的にまとまった本を読んだほうが学習しやすいと思ったんだ」
 あまり聞かないようにしようとしても王子くんの言葉が頭の中に染み込んでいく。いつ頃から将棋を始めたのだろう、誰と対戦しているのだろう。下世話な興味が湧いたけど今度は自制心が働いた。
「……はい。貸出期間は二週間」
「ありがとう。おかげで助かったよ」
 バーコードを読み取った本と一緒に利用者カードを差し出すと、丁寧にお礼を言ってくれた。
 静かな図書室にスマホが振動する音が響いた。スラックスのポケットからスマホを取り出した王子くんは画面を確認してからすぐ戻した。そしてそのまま図書室から出て行った。
「今用事が終わったところだ」
 薄いドアの向こうから王子くんの声が聞こえた。そして何人かの足音。
「あまり図書室に行ったことないけどいいところだね。ポカリもたまには本を読むといいよ」
「読む気がしねー、漫画しか」
「オレはこっちに来てからまだ利用したことがないから今度行ってみようかな」
 王子くん以外の男子は声だけで区別できなかった。盗み聞きしているようで申し訳ない気持ちになる。
「他の模擬戦のメンバーは?」
「蔵内と神田と荒船だな。補習らしい、犬飼は」
「せっかく二年でやるならオペも揃えたいね」
「本部に誰かいるといいけどな」
 ようやく廊下から人の気配が消えて胸を撫で下ろした。そして自分が安心できる状況になると、美帆の顔が自然と思い浮かんだ。王子くんが将棋を始めたことを話したら美帆は喜んでくれるだろうか。
 ここまで考えて自己嫌悪した。この学校にいるからこそ噂話の嫌なところを知っているのに、自分も加わろうとするなんて。

   * * *

 昼休みの後の体育は憂鬱だ。動いたらお腹が痛くなるし、疲れて次の授業は眠くなるし。だから木曜日は好きになれない。
 体育館の扉と小窓を全開にして、大型扇風機を稼働させても九月の猛烈な暑さには全く歯が立たない。棚に置いてあったペットボトルとタオルを取って私は扉の近くに座った。生温い風が流れ込んできても、身体の中の熱が発散される気配はない。タオルで顔を拭いてもすぐに汗が滲み出て頬を伝っていく感触が不快だった。
 グラウンドではA組とB組の男子たちが合同でサッカーをしていた。こんな暑い中よくやるなあと呆れるけど、他人事ではない。何故なら来週は入れ替わりで女子が外で体育をするからだ。真夏と真冬の運動は身体に悪いから図書室で自習すべきだと思う。
 隣に誰かが座ったので見たら美帆だった。トマトみたいに顔を真っ赤にして、全力で走った後の犬みたいにぜえぜえと荒い息を吐いている。
「あかん、この時期のバスケはきつい。卓球とかもっと身体動かさないスポーツがいいわ」
「全力でやるからだよ。ちょっと手抜きしたらいいのに」
「やる前はそう思っても、始まるとスイッチ入っちゃうじゃん」
「そりゃそうだけど」
 二人してペットボトルを傾ける。朝はほぼ凍っていた中身も今はほとんど解けて随分飲みやすくなっていた。
「何か面白い話ないの?」
「ないよ」
 二人でグラウンドに向いて、美帆の呟きに即答するのが恒例になっていた。
「あー、あたしもB組がよかったな。あんたと一緒だし、王子くんもいるし」
「A組もボーダー隊員いるでしょ。加賀美さん、当真くん、水上くん」
「あたしは王子くん一筋なんだよ」
 これもお決まりのやりとりだった。うちはボーダー提携校だけあって、ボーダー隊員が多い。それだけでなくボーダー隊員目当てに入学する人もいる。だから基本的にボーダーに対して好意的な人が多い。中には私みたいに家から近いという理由で受験した人もいるけど。「ボーダーが近界民を作って街を襲わせているマッチポンプだ」とか言うボーダーアンチもたまにいるのは多様性というやつだ。
 ボールを追いかける王子くんを眺める。王子くんは私が見る限り運動神経がよかった。水上くんはボールが近づいてきたら反応するけど、当真くんは何があってもほとんど動かない。せっかく背が高くて長い足もあるのに勿体ないと思う。でもこの三人の中で当真くんだけがA級なのだから、人は見た目で判断できない。
 美帆はボーダー隊員と一緒のクラスになりたいから一高を受けて、自分もボーダー隊員を目指すくらいにはボーダーのファンだった。トリオン量不足で入隊試験は不合格になり、オペレーターの適性もなかったから諦めたけど。プログラミングなんてできるわけないとエンジニアの選択肢は最初からなかったらしい。ボーダー目当てに進路を決める熱心さのわりに入隊はあっさり諦めるあたり、美帆の感覚はアンバランスなように感じるけど、この学校によくいるタイプの一人だ。
 美帆のことは好きだけど、ボーダー隊員をアイドルのように見る人は少し苦手だ。もし自分の一挙一動が注目されていると想像すると少し怖い。
 この学校で一番人気があるのは嵐山先輩。嵐山隊はラジオで番組を持っていて、たまにテレビのCMにも出ているから知名度が段違いだ。学校内ですれ違うと振り返りそうになるくらい嵐山先輩は格好いい。ポスターやテレビでしか見たことない綾辻さんも実物はもっと可愛いんだろう。来年は充くんやさとけんも入ってくるみたいだから一高の競争率が上がるかも。
 私も人気のボーダー隊員に興味がある程度には物好きだけど、それ以外のことはよく分からない。国近さんや当真くんはA級だけど、B級の嵐山先輩のような優等生オーラは出ていないし、勉強も運動も苦手な普通の高校生のように見える。残念ながらボーダー隊員のプライバシーはないに等しいので赤点を取ると噂になる。国近さんに当真くん、影浦くんは常連だった。A級は特に注目の的なのでご愁傷様だ。
 美帆は弓場隊の王子くんがお気に入りらしい。理由は顔がいいから、A級に昇格する可能性があって応援し甲斐があるから。
 前のB級上位の戦いでは嵐山隊、弓場隊、生駒隊の三つ巴だったらしい。王子くんはその弓場隊の攻撃手。
 そう言われてもいまいち想像できない。前テレビで見たボーダー特集の太刀川先輩も攻撃手だった。太刀川先輩の服を着た王子くんを想像したけど、部隊によって隊服は違うそうだ。あと攻撃手用の武器もいくつか種類があるから太刀川先輩が使っていた剣を王子くんも使っているとは限らないらしい。
 こうなると自分の想像力の限界を感じる。よく分からない服を着てよく分からない武器を持って戦う王子くん。最近完成したらしいランク戦会場は数百人収容できるとのこと。私は映画館を思い浮かべた。大きなスクリーンに映し出される弓場隊は王子くん以外黒塗りで、誰がどんな戦いをしているか分からない。見たいとも思わないけど。
 街を守ってくれていることは感謝している。でも、例え訓練でも顔見知りが斬られたり撃たれたりするところなんて目にしたくない。おそらく私はボーダー隊員に向いてないのだろう。訓練を理由にして掃除や委員会をさぼるボーダー隊員もいるから腹が立つこともあるけど、私にできないことをしていると思うと憎めない。
 間仕切りネットの向こうではオペレーターたちがバスケットボールをしている。国近さんと今さんは県外出身。転出する人はいても転入してくる人は少ないからどうしても目立つ。他には水上くんや村上くんもそうだ。転入生はボーダー関係者と思ってほぼ間違いない。
「来月のランク戦こそ弓場隊が勝つよ」
 ランク戦なんて実際には一度も見たことがないくせに美帆は言い切る。しかも自分のことのように。
「それはあんたの願望でしょ」
 よく知らないものに熱を入れる人の気が知れない。でもそれだけ応援しているのなら図書室での王子くんのやりとりを話してもいいかなあと思う。少しでも美帆に喜んでほしいという気持ちと、他人のプライベートを勝手に広めるのはだめだという気持ちがせめぎ合って、結局いつも後者が勝つ。
「ここいい? ちょっと涼ませてー」
 莉子がドアの近くに寄ってきた。こちらの返事を聞く前にへなへなとその場に座り込む。
「全然風ないけど」
「こんなに暑いのに男子たちはかわいそうだねー」
 莉子がペットボトルを豪快に呷る。口から溢れた分を手の甲で拭った。
「あれは来週のあたしたちの姿だよ」
「嫌すぎる! 自習にしよう、自習!」
 莉子は両手を床について大袈裟に溜め息をついた。はは、と美帆が笑う。莉子のハンドタオルを取って顔や首を拭いている。
 ランク戦の話はそれきりで、美帆の話題は数学の先生の悪口や放課後のアルバイトの予定に移った。
 グラウンドのほうは、試合が終わったのか男子たちはもう走っていなかった。水上くんが王子くんの脇腹を小突いているけど、何を喋っているのかまでは聞こえない。当真くんは今日もただ歩いているだけだった。
 そのうちに笛が鳴って男子たちはぞろぞろとグラウンドの中央に集まりだした。
(それにしても王子くん、どうして将棋始めたんだろう)
 誰にも話す機会がないからこそ、ずっと同じことを考えてしまう。単に趣味なのか、ボードゲームをやることはランク戦の役に立つのか。国近さんのオペレーターの能力が高いのはゲーマーなのと関係あるのかとか。
 体育館の中にも笛の音が響き渡る。やっと終わりだ。
 こうなると王子くんのことは私の頭の中から抜け落ちる。王子くんのことを思うのは美帆と顔を合わせるとき、つまり一週間に二回ある体育の時間だけだからだ。
 私たちは立ち上がって片付けに取りかかった。扉を閉めるとき、男子たちの集団が見えたけど、どこに王子くんがいるのかは分からなかったし、もう気にならなかった。
#ワールドトリガー #WTその他

ただそれだけのこと(WT/王羽矢)


ワールドトリガー』王子一彰×橘高羽矢。WT男女アンソロジー『Step the Line』に参加させていただいた王子×橘高です。発行から1年経ったので再録します。特に好きな男女CPで参加できて嬉しかったです。
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 机の上で長い指を組む蔵内がほのかに微笑む。彼がまとう空気には戸惑いや拒絶などのマイナスの気配が一切なかった。だから、今度こそ受け入れられるだろう。
 そう思ったときのことだった。
「ダメです」
 穏やかでありながらしっかり引き締まった声が作戦室に響いた。蔵内の表情に変化はなく、だからこそ否定的な言葉を発したことに、橘高はすぐ気づくことができなかったのだ。
 王子はやれやれと肩をすくめた。つい最近まで白いジャケットを着こなしていた彼が今まとっているのはフリーの正隊員用の隊服だった。弓場隊から巣立ったゆえにその隊服を身につけることはない。そして王子隊の隊服は未だ完成していない。宙ぶらりんになっている彼らに早く隊服を用意したいと思うのだが。
 蔵内が手にした端末には、橘高が描いたデザインが映し出されていた。太刀川隊を参考にした黒のロングコートだ。
「これは裾が長すぎます。もっと清潔感があり機能的で、華美でないものが望ましいでしょう」
「生徒指導の先生みたいな言い方ね……。そんなの学校の制服みたいになるわよ」
「制服、いい例えですね。市民が俺たちをボーダー隊員であると判別できればいい。俺たちの個性は見た目でなく、任務に活かすべきだと思います」
「……」
 つらつらと言葉を紡ぐ蔵内はそつがなく、反論するタイミングを逃してしまった。
 嵐山隊や三輪隊のように基本のデザインをアレンジしている部隊もあるが、せっかく自分たちだけの隊服なのだからオリジナルのものがいい。そう橘高が王子隊の面々に訴えたところ、デザインを任された。
 そして早速ラフを何枚も描き上げたが、ことごとく蔵内に却下された。最初は気を遣った物言いだったのに、ここのところ面と向かって否定的な評価をするようになったのは、親しくなったからだと思いたい。
「ぼくは動きやすかったら何でもいいんだけどな」
「おれもです」
 橘高と蔵内の攻防を眺めていた二人が呟く。王子と樫尾は隊服にこだわりがないらしくこの話題には乗ってこないのだった。
 ──二次元でしか見られないようなイケメン。それが彼らの第一印象だった。名は体を表す王子、知性と包容力を兼ね備えた好青年の蔵内、若く将来有望な樫尾。
 彼らはボーダー隊員としての実力が認められてB級に上がったのだが、三人集まるとまるでアイドルのようだった。正隊員になるための努力や才能を称えるのならともかく、容姿に言及するのは抵抗があるのであまり口にしないようにしているが。
 ボーダー隊員の使命は三門を守ることであり、橘高もそのために入隊した。その気持ちに偽りはないのだが、こんな原石があるのなら磨きたいと思うのが人情だろう。
「話は終わったので、そろそろ個人ランク戦に行きます」
「蔵内先輩、おれもです」
「はい、いってらっしゃい。次こそはオッケーもらえるデザインを考えるから」
「よろしくお願いします」
 蔵内と樫尾が連れ立つのを見送った。扉が閉まると橘高と王子の二人だけになる。
「羽矢さんのデザインはどれも格好いいからすぐ決まると思ったけど難航しているね。クラウチがあんなに頑固だなんて知らなかったよ」
「うん……。いいえ、私がやりすぎたのかも」
 橘高は自分の端末に蓄積しているラフを見返した。蔵内に言われたことを思い返すと、確かに他の部隊と比べて随分と華美だ。彼らの美しさを引き立てる必要はないと分かっている。しかし、こうあってほしいという理想を諦められない。
 ふうと大きな溜め息が漏れた。王子隊の前途は多難だ。何せ結成しただけでまだ隊服すら決まっていないのだ。自分から言い出したことなのに、みんなにずっとあり合わせを着せたままなのは申し訳ない。
 王子から視線を感じた橘高が顔を上げた。顎に手を当てて何か考えている彼と目が合った。
「ねえ、羽矢さん。アイコンの話の続きをしてもいいかい?」
 端末を持った王子が橘高を呼んだ。正対して二人の端末の画面を共有すると、橘高が作ったアイコンが表示されていた。ランク戦の作戦会議用に王子から依頼されたものだった。
「こんなリアルにみずかみんぐを描き込んでくれてありがとう」
「水上くんっていうよりただのブロッコリーだけど」
「カイくんもオッキーもイメージどおりだ」
 生駒隊のアイコンは水上と隠岐と南沢が完成した。次回は生駒について話そうと言って終わったのだ。
「イコさんはロボットっぽいかな。そう言われるのはクラウチだけど、ぼくはイコさんのほうがずっとそれっぽく感じる。二人とも感性は豊かだけどね」
「蔵内くんはロボットっぽく描いたから、生駒くんは……メカとか? 昔のポリゴンみたいな感じはどうかしら。初代VFのアキラに少し似てるし」
「ポリゴン? アキラ?」
「バーチャファイターっていうゲームが昔あったのよ。今よりずっと技術が拙かったからキャラがカクカクしていたの」
 キャラクターの検索画面を見せると、王子が口に手を当てた。肩が揺れるほど笑うのは珍しい。
「確かに似ているね。それにしても一九九三年なんてそんな前のことを知っている羽矢さんはすごいよ」
「ただゲームやアニメが好きなだけよ」
「それでも知識があって困ることはないさ」
 ペイントソフトを立ち上げて、生駒のアタリを描いた。ロボットやメカのデフォルメは慣れていないせいで筆に迷いがあった。でもいつもと違うことを考えながら絵を描くのは初心に返ったようで気分がいい。画面の隅に生駒の特徴を書き添えて一度保存した。
 橘高が下描きするのを王子は興味深そうに眺めていた。作戦室の大きなテーブルの向こうにいても色素の薄い睫毛がよく見える。夏空色に輝くその瞳に視線を奪われる。
「羽矢さんと話すと自分の中のイメージが具体的になるから楽しいよ。実際イラストになるとインパクトがあるね」
「私も王子くんの話を聞くのは楽しい。今まで自分が描きたいものばかり描いていたから」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。早くアイコンを使いたいな、ランク戦が楽しみだ。隊服もいろんなデザインを考えてくれてありがとう」
 年下に気遣われる恥ずかしさより喜びが勝った。大輪の花のような笑顔を向けられただけで全てが報われた気がした。

   * * *

「っていうことがあって」
「んだよ羽矢。のろけるためにこっちに来たのかよ」
「違うわよ。結成したばかりの部隊は新鮮味があるわねって話。あんたにもそういう時期があったでしょ」
 デスクに頬杖をつく藤丸に釘を刺す。王子と蔵内が独立したのとほぼ同時に外岡と帯島が入ったので弓場隊の総人数に変更はなく、作戦室のレイアウトも以前のままだった。
「隊服ですか。まさか王子でなく蔵内の奴がネックになるなんて思いませんでしたよ」
「あら神田くんありがとう」
 湯気が立ち上るマグカップが橘高の席に置かれた。緑茶の水面に自分の影が映る。一拍遅れて、芝を刈った後のような爽やかな草の香りが鼻腔をくすぐった。
 藤丸の席にも茶を運ぶ神田を眺める。付き合いが長い神田からも蔵内の態度は頑なに見えるのだろうか。あまりにも蔵内との間で押し問答が続いたせいで、橘高は冷静に自分を省みることができなくなっていた。
「にしても蔵内の野郎、こまけーこと気にしやがって。後でいくらでも変更できるんだからさっさと決めちまえばいいのによ」
「言い過ぎよ。私もアニメっぽいデザインに寄せすぎたから、着る人のことを考えるべきだったわ」
「ののさんが憎まれ口を叩くのは、王子と蔵内がいなくなって寂しいんですよ。これからも話聞かせてくださいね」
「こっちはトノとユカリを育てるのに忙しいんだ、出ていった奴のことなんざ知るか」
 藤丸に睨まれた神田が悪びれる様子はなかった。気心の知れた間柄だからこそのやりとりに頬が緩む。橘高と王子たちはまだこんな円滑な会話はできないだろうから。
「しかし羽矢が三次元の男に興味持つなんてな」
 茶を啜っていた藤丸が袋菓子をつまんだ。そうではないと言っているのに彼女はずっと勘違いしている。
「そういうんじゃないの」
「何人もイケメンから告られても無視してたの忘れたのか? ずっとアニメ見て絵ぇ描いて、おめーは昔から自分のやりたいことしかやらなかったじゃねーか。それが突然他人のために尽くすようになりゃな。どういうことかあたしでも分かるぞ」
 確かに他人のためにこれだけ創作するというのが初めてだけど、尽くすというのは少し違う。私はみんなにふさわしい服を作りたいと思っただけ、王子くんのリクエストに応えたかっただけ。ただそれだけよ。そう心に浮かんだ言葉が実際唇に乗ることはなかった。
 ボーダーの活動と趣味にのめり込んでいたせいで人間関係に偏りがあったのは認める。現に異性の機微は分からない。異性から自分に向けられる感情を察するのも、自分が異性に向ける感情が何なのかを考えるのも苦手だ。
 だから自隊の仲間に友人として好意を抱いている以上の自覚が持てない。
 そんな橘高の戸惑いを見透かすように藤丸は微笑んでいた。まるで答えを知っているかのように。
#ワールドトリガー #王羽矢

花火(WT/水隠岐)


ワールドトリガー』水上敏志×隠岐孝二。水隠岐ワンドロワンライ第5回に投稿した作品。事後の語らい。水上は出不精なイメージがありますが隠岐となら出かけてくれると信じています。
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 エアコンが音を立てながら冷風を送り出していくのを眺めていた。ざあざあと大雨でも降らせているかのような雑音だった。部屋が狭いからより大きく聞こえるのかもしれない。
 ひやりとした空気が素肌を撫でていく。身体の内側は熱いのに、表面の温度だけ奪われる不思議な感覚。肌を冷やしたところで中にこもった熱はなかなか抜けないことを隠岐は知っていた。
 上半身を起こした隠岐は、ベッドの端に追いやられた衣服の中からパーカーだけを拾い上げた。下着はまだ身につける気分にならない。
 羽織って横を見ると、水上が寝ていた。寒いのか布団を首までかぶっている。彼もまた視線を隠岐に向けていた。気怠げな、嫌味の一つをぶつけそうな目で。
「そろそろ起きませんか?」
「おまえが先にシャワー行け」
 しっし、と虫でも追い払うような仕草だった。先ほどまで激しい情を交わしたとは思えない冷淡さだったがもう慣れた。
「水上先輩冷たいわー。もっとムード大事にしましょうよ」
「今更そんなもんあるか」
 肩を掴んでさすってみるがびくともしない。動くつもりのない人間の身体というのはこんなに重いのだろうか。
 花火しませんか、と提案すると「寮の敷地内は引火物とか危険物の持ち込み禁止やで」と却下された。
 花火を見に行きませんか、と誘うと「人の多いとこ苦手やねん」と断られた。
 やらん理由を並べるよりやる理由を考えましょうよ、と微笑むと「自分は連絡つかんときあるのにこんなときだけ都合のいいこと言うんか」と取り付く島もない冷たい目で見られた。
 彼のテンションは元々低めで安定している、そう理解してもつれない態度だった。
 その心当たりは多少あった。例えばかかってきた通話に出なかったとか、届いたメッセージに返信したのは日を跨いでからとか。生駒や南沢はそういうことを気にしない。というか知り合いの男は大抵そうだった。女より男のほうが人間関係に対して大雑把だった。言い換えれば淡泊。友情のあり方に男がいいとか女がいいとか思わないが、前者のほうが隠岐にとっては気楽だった。
 隠岐に連絡がつかないことがあるというのは生駒隊では周知の事実だった。別にわざと連絡を絶っているのではないし、やましいことをしているわけでもない。非常呼び出しがあれば対応できるようにしている。
 寮と学校、ボーダーの三か所を行き来するだけの生活に息苦しさを感じて、どこか別のところに行きたいと思うことがあるのだ。そのタイミングは隠岐にも分からない。ふとした瞬間に財布とスマートフォンだけを持ってここからいなくなりたいと考える。その時点でほとんどの場合はもう外にいた。
 つい先日もそんなことがあったと思い出しながら、床に足を下ろす。ひやりとした感覚が心地よい。
 閉じたカーテンの隙間から夜空が見えた。窓際に寄ってカーテンを更に開いてみる。パーカーの他は何も身につけていないから外から見えないようにした。といっても警戒区域近くに家や店は少なく、寮の周囲は暗い。
 放棄地帯の黒々とした建物の向こうの夜空が光って見えた。下から一本の光が天に向かって走り、ある高さまで届くと幾筋にも分かれて散る。それが何度も繰り返されていた。打ち上げ花火だった。まるで照明弾を逆さにしたみたいやなあ、と戦いに身を置く者らしい考えが浮かんだのはさておき。
「ここからも花火見えるんや」
 いつの間にか立ち上がった水上が隠岐の背後を取った。大きな手に後頭部をさすられる。
「おまえは人懐こいと思うてもすぐおらんようになる。呼んでも来ん。何考えとんか分からん。ふにゃふにゃして掴みどころがない」
 そう言って水上は隠岐の首根を掴んだ。もっとも換装体でない限り水上が隠岐を持ち上げることはできないが。
「水上先輩が言いはりますか? あんたのほうこそ分からんわ」
 ふっと笑みがこぼれた。隠岐でなくとも彼の複雑な思考を理解するのは困難だ。
「こっちの花火大会がどんなんか見たかったなあ。大阪より人少ないだろうし、よう見えるかも」
「行くか。蓮乃辺のが一週間後くらいにあったはずや」
「人混み嫌いなんとちゃうんですか?」
「俺の言うことを信じる奴がおるか」
 窓ガラスに二人の影が映る。パーカー越しに抱き寄せられる。ごつごつと骨が目立つ腕の中に隠岐が収まった。
「……たまには俺から誘わせろ」
 耳元で囁かれる。拗ねたような、腹を立てているような、どちらとも受け取れる語気はほんの少しだけ荒い。後ろに立つ水上の表情は分からない。
 そういえば誘うのはいつも自分のほうからだということを思い出した。水上が声をかけるタイミングと隠岐が一人になりたい時期が重なることが多かったので。
 パーカーの中に水上の手が入り込んでくる。隠岐の輪郭を全て暴こうとするようなじっとりとした愛撫。
 肌を這う水上の手の意図を察した隠岐が制す。盛りのついた動物であるまいしこんなところで致すのははしたない。水上らしくない行動だ。
 感情を捨てたかのような無駄のない指揮を執るランク戦での彼の姿がふと思い浮かんだ。しかし今ここにいるのはただの高校生だ。可愛い、と言ったらまた何か言われるので胸に秘めておく。
 隠岐の手の上にさらに水上のそれが重なった。指と指を擦りつけながら根元から絡ませ合う。湿り気のある熱い掌が隠岐を捉えた。
 うなじに口づけられた。舐められて吸われた。きっと痕がつくだろう、彼はそのつもりでしたはずだ。
 これから起こることを予感した隠岐は静かに目を閉じた。
#ワールドトリガー #水隠岐

麦茶(WT/いこみず)


ワールドトリガー』生駒達人×水上敏志。いこみずワンドロワンライ第53回に投稿した作品。好きな二人が食事する話はいいものです。
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 ベッドとパソコンデスク、食事用のローテーブルを置くと六畳ほどの部屋はもういっぱいになる。
 ついさっきまでローテーブルに陣取っていた教科書やリモコン、ティッシュ箱は床に下ろされ、今は食事が並べられていた。
 大皿に盛られたカレー、色鮮やかな蒸し野菜。それらできたての料理からは湯気が立ち上り、部屋の中に甘く蒸れた香りが広がっていた。
 生駒の手料理をいただいたのはこれまでに何度かあった。客人は大人しく座っとれと生駒は気を利かせたが、水上としては全てを先輩に任せることに抵抗があった。料理の手間もそうだし、食材費だって数を重ねれば馬鹿にならないはずだ。それでいつも自分にできることはないか探すのだが、単身者用の台所に男二人が立つとそれだけで窮屈だった。狭いとこなら一人でやるんが一番効率ええ、というのが生駒の言だ。
 いつもどおり手持ち無沙汰でいて、そして料理が運ばれてくる。非番のよくある風景だった。しかし今日は一ついつもと違うところがあった。
 1.5リットルのウォーターボトルに入った茶色い液体。
「イコさん、夏は麦茶派すか」
「おう。実家におるときは食事の度にお茶を沸かして飲んどったけど、今は面倒やから水。でも夏はやっぱ麦茶やろ」
「うちも夏は麦茶かほうじ茶やったなあ。それ以外の季節はミネラルウォーターでした」
「麦茶はカフェインが入ってないのに『お茶飲んどる感』があってええねん。なんぼでも飲める」
 生駒が麦茶をコップに注いで水上に手渡した。ありがとうございます、と小さく頭を下げて受け取る。
 ここに持ち運ばれたときは透明だったウォーターボトルの表面は今やすっかり結露していた。ボトルの真ん中あたりに生駒の手形が残っていたが、そこもすぐびっしりと濡れた。ガラスの表面を水滴が伝い、テーブルが湿った。
 手にしたコップを水上がぐいと傾けた。香ばしい液体が喉を通って胃に流れ落ちた。
「……うまい」
 水上が呟いた。その言葉を聞いた生駒が小首を傾げる。
「ただの麦茶やのに?」
「手作りのお茶の味がします」
「スーパーの安物やで。50パック入りのやつ」
「俺は普段スーパーの2リットル入りのやつを飲んどるんで。ペットボトルのお茶とかコーヒーって独特の味するやないですか。ちょっと今、実家のことを思い出しました」
 生家にいた頃よりいくらか味も色も濃い麦茶。ただ湯を沸かしてティーパックを放り込んだだけのものでも、既製品を飲み慣れた水上には新鮮に感じられた。
 大きめに切られたじゃが芋や人参をスプーンに乗せて一口頬張る。馴染みのある、自分がよく知っている味。
「カレーのルゥはどのメーカー使っとります?」
「普通にハウスのジャワカレー」
「多分うちもです」
 親が作ったのと、生駒が作ったものは少し違う味がした。同じレシピでも同じ味は再現できない。それは具の種類や量、大きさだったり、かける時間などその人の個性によるものだろう。
「イコさんの味、好きやなあ」
 しみじみ呟くと生駒が真顔のまま頬をかいた。どうやら照れているらしい。
「そのうちもっと手ぇ込んだ料理作ったるからな」
「今も十分美味しいですよ。楽しみにしとります」
 スプーンに盛々になったカレーをまた口の中に運ぶ。炊きたての米の熱さに舌がじんと痺れた。そして何拍か置いて辛さで身体がかっと熱くなる。
 今水分を摂っても口全体に辛さを広げるだけだと分かっているのにまた麦茶を飲んだ。あっという間にコップが空になった。
 特に楽しいことがあったわけでもないのに笑みがこぼれた。食事することは幸せなことだと感じたのだ。
#ワールドトリガー #いこみず